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第2話 異能の令嬢

last update 최신 업데이트: 2025-06-04 17:10:00

 茶色の髪と瞳で生まれる子供が多いラングヒル伯爵家では、たまに黒髪黒目の娘が生まれる。

 そしてラングヒル伯爵家の黒髪黒目の娘は、王家に嫁ぐのが習わしだ。

 だがなぜかその理由について、ラングヒル伯爵家の者が知ることはない。

 さらに言えば、まるで生贄のように差し出された娘がどうなったのかについても興味を持つことはない。

 まるで家系図から切り離されたかのように忘れ去られるのだ。

 黒髪黒目で生まれたミカエラ・ラングヒル伯爵令嬢の未来は、生まれ落ちたその日から決められていた。

 ラングヒル伯爵家の黒髪黒目の令嬢は『愛する人を癒す異能』を持っている。

 しかし愛する人を守ることのできるその特殊な異能が、令嬢を幸せにするとは限らない。

 今から10年前。

 王太子アイゼルが12歳の時に、高位貴族の令嬢たちが集められた。

 そこには何故か、伯爵家のミカエラも呼ばれたのだ。

 大人たちは知っていた。

 そのお茶会が、王太子の婚約者を探すためのものであることを。

 だがミカエラは全く気付いてはいなかった。

 その時、彼女は8歳。

 まだ世の中に憂いというものがあるという事すら、知らない年頃のことである。

 2人の姉と共に可愛らしいドレスを着せられて、華やかな場所に連れて来られた彼女は無邪気に楽しんでいた。

「きれいっ。とってもきれいっ!」

 よく晴れたうららかな日。

 花は咲き乱れ、日差しはたっぷりと降り注ぎ、ミカエラの心に憂いはなかった。

 花咲き乱れる庭園に、華やかなテーブルセッティング、そこに並べられた彩りも鮮やかな可愛らしいお菓子たち。

「うふ。かわいい。絵本みたい」

 お伽噺のような空間に、ミカエラの心は踊った。

 春から夏に向かっていく季節は、いつも希望に満ちている。

 初めて見る高位貴族のご令嬢たちは、美しく可愛らしい。

 お人形のように完璧に着飾り、淑女のような所作をとる。

 現実とは思えないほど素晴らしく、そこに混ざっている自分に違和感を感じるほどだった。

 しかし、ミカエラは、わずか8歳。

 深く考えることはなかった。

 見ているだけでも楽しいお茶会に浮かれて、踊りだしそうな気分でいたのだ。

 周りの大人たちは伯爵令嬢ではあるものの、力があるわけでも、お金があるわけでもない家柄の娘が混ざっていることを不思議に思って、あるいは不快に思って眺めていたようだった。

 不躾な視線を浴びながらも、美味しくて可愛いお菓子とお茶を楽しむミカエラは、ただの子供だった。

 あの時までは。

「今日は私が12歳になる誕生日。この記念すべき日のお茶会に出席して頂き、ありがとうございます」

(王子さまだぁ……。きれい)

 金髪を太陽の光に煌かせるアイゼルは、いかにも王子さまという雰囲気をまとっていた。

(キラキラしていて、絵本の中から抜け出てきたみたい。素敵ね。でも……わたしとは、関係のない人。遠くからでも見られてラッキーだわ)

 王子も、王族も、王宮も。

 素敵だけど、自分とは関係のない人たちで遠い存在、縁のない場所。

(生きてる世界が違うのよね)

 ミカエラは周りの雰囲気など気にせず、お茶とお菓子を楽しんでいた。

 しかしそれが気に食わないご令嬢たちがいた。

「生意気なのよ」

「ええ、生意気だわ。大した家でもない伯爵家の娘が」

「場の空気を読まないにもほどがあるわ」

「?」

 何が生意気なのか分からないまま、高位貴族の令嬢たちに囲まれたミカエラは足を引っ掛けられて転ばされ。

 ついでとばかりに、お茶もかけられた。

 集められた令嬢のなかで一番年齢が若く、爵位も低い家のミカエラを邪険に扱うことなど簡単だ。

「ふふ。あなたなんて濡れネズミがお似合いだわ」

「ふん。いい気味だわ」

「これからは気を付けることね」

 唖然とするミカエラに満足したご令嬢たちは、ツンと澄ました顔で何処かへ行ってしまった。

(なぜイジワルされなきゃいけないの?)

 庭園に転んだまま残されたミカエラは、泥だらけのまま泣き出してしまった。

「キミ、大丈夫?」

 優しく声をかけられて見上げれば、日差しを浴びて光り輝く金の髪。

「転んで泣いちゃったのかな? 大丈夫だよ。さぁ、手を出して」

 優しい笑みを浮かべるその人は、ミカエラに向かって手を差し出した。

 ミカエラは、その手に向かって自分の手を伸ばす。

 温かで、自分よりも大きな力強い手。

 その手に自分の手をしっかりと掴まれて、ミカエラは引っ張り起こされた。

「汚れちゃったね。ケガはしてない?」

 澄んだ青い瞳が、ミカエラを覗き込む。

(王子さまだ!)

 ポンッと音がするくらい勢いよく耳が熱くなる。

 顔はもちろん、首まで真っ赤だろう。

 ミカエラは王子さまの手を振り払う勢いで引き寄せた自分の手を、両方の頬へとあてた。

 熱い。

 不躾な態度を後悔しつつ、何か言わなければとミカエラは焦った。

「あの……大丈夫……です」

「せっかく可愛くして貰ったのに、かわいそうに。転んじゃったのかな。痛くなかった?」

「……っ」

 ミカエラは両手で顔を覆いたくなった。

 そんな見苦しい所作をとるのは恥ずかしいことだけれど。

 恥ずかしくて、恥ずかしくて。

 自分の手の陰でもいいから隠れたい。

 そんな気分だった。

「すぐに直して貰おうね。キミの侍女はどこかな?」

 優しい口調。

 優しい気遣い。

 優しい笑顔。

 ミカエラが恋へ落ちるのに時間は必要なかった。

「侍女……」

 呟きながらミカエラは突然、激しい痛みを覚えた。

 全身にトゲが突き刺さり、筋肉がねじり上げられるような痛み。

「うっ……」

 うめいた後の記憶は無い。

 初めて『被害の肩代わり』が起きた日だ。

 アイゼルのお茶には毒が盛られており、ミカエラが身代わりとなって苦しむことになった。

 ミカエラは初恋を知ったその日に、初めて服毒による苦しみを知った。

 そこからの動きは早かった。

 瞬く間に婚約が結ばれて。

 毒による苦しみから目覚めたミカエラは、自分が王太子の婚約者になったことを知ったのだった。

 あれよあれよという間に、ミカエラはラングヒル伯爵家から王宮へと居を移し、そして10年の時が過ぎた――――

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